県指定文化財［天然記念物］

明日の大桜

県・天然記念物
昭和四〇年一月一日指定
黒部市宇奈月町明日八三六（法福寺）

 　黒部川の愛本橋を渡り、舟見の台地へでると、高野山真言宗法福寺の参道が右手に見えてくる。この法福寺境内の御堂の東側に、幹まわり約五㍍、樹高約一三㍍のエドヒガンの老樹がある。樹幹と枝張りが見事で、地上約四㍍のところで四枝に分かれ、東西約一五㍍、南北約一三㍍に及び、樹勢は極めて旺盛である。

　花の色は白っぽく、わずかに紅色を帯びている。花の萼は、他の桜は細長い筒状であるが、エドヒガンは丸くて短い筒型をしている。

　エドヒガンは日本の山に自生する桜の一種であるが、老樹巨木で山に生育しているのは少なく、多くは神社仏閣に保護されている。

　この大桜の前庭にある舞台で、毎年四月の第三日曜日に、国の重要無形民俗文化財に指定されている明日の稚児舞が奉納される。その頃にはこの桜が咲き、古式ゆかしい舞を一段と引き立て、近郷近在から多数の人々が参観に訪れる。

●富山地方鉄道「愛本駅」下車、徒歩四〇分

内山のとちの森

県・天然記念物
昭和四〇年一月一日指定　
黒部市宇奈月町字大尾（個人所有）

 　宇奈月ダムを眼下に望む黒部川左岸の斜面に三本のトチノキの大木がある。樹齢約三〇〇年、幹まわり約五・五㍍、樹高約一五㍍の見事な大木である。

　かつて地元では、トチの実は大切な食物であったことから伐採を固く禁じて来た。そして、トノサマキと呼んで大切に保護をしていた。

　地元には、この実のアクを抜いてトチガユやトチモチを作る技術が今も伝承され、催しの時参加者にふるまわれている。

　指定されていないが、尾沼谷左岸斜面、及び、嘉々堂山（尾沼谷とノボセ谷の間）の斜面に、多数のトチノキが生育している。対岸から見ると、うっそうと茂ったトチノキ林が全山を覆っている。富山県内のトチノキ林の大部分は雪崩防止林であるが、このトチノキ林のように食糧用として保護されてきた林は少ない。

●富山地方鉄道「宇奈月温泉駅」下車、旧十二貫野用水沿い南へ徒歩四五分

宇奈月の十字石

県・天然記念物
昭和四〇年一月一日指定
黒部市宇奈月町深谷・小谷・イシワ谷

　この十字石は黒部川左岸の愛本付近から片貝川の上流まで分布する宇奈月結晶片岩の一部に含まれている。

　十字石を含む結晶片岩は十字石片岩と呼ばれている。たびたび、長柱状の結晶同士が六〇度または九〇度で交差し、Ｘ字又は十字形をなす（双子の結晶、双晶。昭和二三年に石岡孝吉によって深谷で発見された。

　宇奈月結晶片岩は、日本列島がまだ大陸の一部であった約三億年前に堆積した地層が約二億五千万年前の変成作用を受けて形成され、この中からコケムシや有孔虫の化石が発見されている。この十字石片岩は、大陸同士の衝突があった証拠となる一連の温度圧力条件を示す鉄分の多い泥から成っている。

　深谷の他、小谷、イシワ谷一帯が天然記念物として場所指定されており採取することが禁止されている。黒部市役所宇奈月庁舎の前庭によい標本がある。

●県道宇奈月―朝日線沿線、黒部市役所宇奈月庁舎前

愛本のウラジロガシ林

県・天然記念物
昭和四二年九月二六日指定
黒部市宇奈月町愛本西爪（国有林）

 日本アルプス鷲羽岳を源流とする黒部川は、愛本橋付近で堅い岩の層を断ち切って奔流し、これより平野に扇状地をつくって日本海に注いでいる。愛本橋は黒部川扇状地の扇頂にある。

　愛本橋の左岸上流側の断崖にウラジロガシ林がある。断崖を覆うように、ウラジロガシの大木九本が繁茂している様は壮観である。

　ウラジロガシは、葉の裏が著しく粉白色を帯びる暖地性の常緑樹である。ブナ科の植物でどんぐりを着け、樹高は約二〇㍍にもなる。富山県内のウラジロガシ林は、平地から神通峡、片貝谷、宇奈月温泉対岸の遊歩道周辺地などの峡谷内部まで、およそ標高五〇〇㍍の範囲に広く生育している。

　愛本のウラジロガシ林は、峡谷に面して風が強く、かつ岸壁の割れ目に根を張って大木に生長していることで、学術上貴重である。

●富山地方鉄道「愛本駅」下車、徒歩一〇分